LangChainとは?基礎から応用まで完全ガイド
更新日: by Heysho
LangChainは、LLM(大規模言語モデル)を使ったアプリケーション開発をサポートするオープンソースのフレームワークです。
PythonとJavaScriptに対応しており、自社データを活用したAIチャットボット( RAG)や複数ツールを使いこなすAIアシスタント(エージェント)を簡単に構築できます。
2024年には LangSmith(監視・テストツール)や LangGraph(複雑なAIエージェント構築用)が登場し、2025年5月にはLangGraph Platformが正式リリースされました。
ただし、LangChainは 週単位で更新される活発なプロジェクトで、最新情報の追跡が難しい面もあります。
本記事では2025年3月時点の最新情報をもとに、具体的なコード例と実際の活用事例を交えて、初心者から中級者まで役立つ情報を解説します。
目次(Table of Contents)
- LangChainって何?基本的な仕組みと特徴
- こんなことができる:実用的な活用アイデアと作り方
- 実際に使われている例:企業での導入事例と成果
- 他のAI開発ツールとの違い:選び方のポイント
- これからどうなる?最新の機能と今後の発展予定
- まとめ:段階的に学ぶLangChainの活用法
LangChainとは?基本から理解する
LangChainの簡単な説明
LangChain は、 ChatGPTのようなAI言語モデル(LLM)を 「アイデア段階から実用サービスまで」 簡単に活用できる オープンソースの開発ツールです。
単に質問を投げかけるだけでなく、自社データベースの検索( RAG)や 外部ツールの操作、会話の記憶保持といった機能を わずか数行のコードで実現できるのが最大の魅力です。
LangChainで解決できる問題
- 複雑な指示出し(プロンプト)の管理 ― 例えば「まず要約→次に分析→最後に提案」といった複数ステップをテンプレート化できます。
- 社内データとの連携 ― 例えば「2024年の営業資料を検索して最新情報を回答に含める」といった処理が簡単に実装できます。
- 本番環境での安定運用 ― LangSmithで動作ログを確認したり、LangGraphで複雑な対話フローを構築したりできます。
LangChainの動作の仕組み
- AI接続部分 ― OpenAI、 Anthropic、自社サーバー上のモデルなど、どのAIを使うかを簡単に切り替えられます。
- 指示文テンプレート ― 「こんにちは{ユーザー名}さん」のように変数を含む指示文を作れます。
- 処理の連鎖 ― 「データ取得→要約→質問応答」などの一連の流れを自動化できます。
- 会話の記憶 ― 「前回の会話で話した内容」を覚えておく機能です。
- 自律行動機能 ― AIが自分で「次は検索しよう」「計算が必要だ」と判断して行動します。
- 情報検索と回答生成 ― 例えば「社内文書を検索してから回答する」といった処理を実現します。
AIアプリ開発におけるLangChainの役割
単純なAPI呼び出しだけでは難しい 「複数ステップの思考プロセス・社内データの活用・リアルタイム情報の取得」 を、LangChainなら標準部品を組み合わせるだけで実装できます。
そのため、アイデアの素早い検証と安定した本番サービスの両方を効率よく実現できるのです。
便利な機能をわかりやすく解説
- 指示文の作成支援 ― 例えば「{商品名}の特徴を3つ挙げてください」のように、変数部分を差し替えて大量の質問を自動生成できます。
- 会話履歴の保存 ― 「前回の質問と回答を覚えておく」「長い会話を要約して記憶する」など、様々な記憶方法で継続的な対話を実現します。
- 処理の自動化 ― 例えば「データ取得→翻訳→要約→質問応答」といった複数ステップの処理を一連の流れとして定義できます。
- AIアシスタントの自律行動 ― 「天気を調べる」「計算する」「データベースを検索する」といった様々なツールをAIが状況に応じて選択し実行します。
LangChainで作れる実用的なAIアプリケーション
社内文書を賢く検索できるAIアシスタント
社内の資料やマニュアルをAIで検索できるシステムを作れます。
例えば、「新入社員研修の資料はどこ?」と質問すると、関連文書を探して「研修資料は共有フォルダのこちらにあります」と具体的に回答します。
これはRAG(検索拡張生成)という技術で、AIの回答精度が大幅に向上します。
会話を記憶して的確に応答するカスタマーサポート
会話の流れを覚えておく Memory機能と、必要な情報を自動で取得する Agent機能を組み合わせたチャットボットが作れます。
例えば「先日注文した商品の配送状況を教えて」という質問に対して、注文番号を確認し、配送システムに問い合わせて「〇〇様の商品は明日到着予定です」と回答できます。
長い文書を要約・分析するレポート作成ツール
長い文書や複雑なデータを分かりやすく要約できます。
例えば、100ページの市場調査レポートを「主要なトレンド3つと今後の見通し」という形で簡潔にまとめたり、売上データから「4月は前年比15%増、特に東京エリアが好調」といった分析コメントを自動生成したりできます。
画像や音声を理解して処理するAIアプリ
画像や音声を文字に変換してAIで処理するアプリが作れます。
例えば、商品の写真をアップロードすると「これは〇〇ブランドの△△モデルで、特徴は□□です」と説明したり、会議の録音から自動で議事録を作成したりできます。
LangChainがこれらの処理を一連の流れで実行します。
複数の作業を自動でこなすAIアシスタント
AIが自分で考えて複数の作業を順番に実行する仕組みを作れます。
例えば「来週の会議の準備をして」と指示すると、カレンダーを確認し、関連資料を集め、議題案を作成し、参加者にメールの下書きを準備するといった一連の作業を自動化できます。
ただし、無限ループなどの暴走を防ぐ安全設計が重要です。
実際の企業でのLangChain活用事例と成果
日本企業での成功例
大手通信会社のカスタマーサポート改善
お客様サポートセンターにLangChainを使ったAIチャットボットを導入したところ、自動応答率が35%向上し、サポートコストを23%削減できました。
例えば「料金プランの変更方法を教えて」といった質問に24時間自動対応できるようになりました。
製造会社の技術情報検索システム
技術マニュアルや設計図面をLangChainのRAG(検索拡張生成)システムに接続し、エンジニアが必要な情報を探す時間が5分の1に短縮。
「この部品の耐熱温度は?」と質問するだけで即座に回答が得られるようになりました。
海外企業の活用事例
営業支援ツールを開発したソフトウェア会社
LangChainを使って顧客データベースと連携した営業メール自動作成システムを構築。「〇〇様、前回ご検討いただいた△△機能が改善されました」など個別化されたメールにより、開封率が42%から58%に上昇しました。
商品レコメンドを改善したネットショップ
商品データベースとLangChainを連携させて、「あなたの購入履歴から、こんな商品はいかがですか?」といった自然な推薦文を生成。商品クリック率が15%向上しました。
無料で公開されているプロジェクトでの活用
プログラマー向け自動コードレビュー
プログラマーがコードを提出する際に、LangChainベースの自動コードレビューが「この部分はセキュリティリスクがあります」「ここはもっと効率的に書けます」などの具体的アドバイスを提供し、デバッグ時間を半分に削減。
技術文書の自動作成ツール
オープンソースプロジェクトがLangChainで技術文書の要約・翻訳を自動化。
例えば「先週の変更点をわかりやすく箇条書きにして」と指示するだけでリリースノートが作成でき、作業時間を80%短縮できました。
導入で得られた主なメリット
人件費の削減
「よくある質問」への対応をAIチャットボットに任せることで、カスタマーサポートの人件費を最大30%削減できた企業が多数あります。
お客様の満足度アップ
24時間即時応答が可能になり、「待たされる」ストレスが減少。顧客満足度調査で平均0.6ポイントの向上が見られました。
新しいサービスの開発
既存のサービスにLangChainを使ったAI機能(例:「あなたの文書を要約します」「データから洞察を抽出します」)を追加することで、年間収益が15%増加した事例があります。
失敗から学ぶ教訓
AIの暴走と対策
制限を設けなかったAIが無限にAPIを呼び出し続け、数時間で数十万円の課金が発生した事例も。「1回の会話で最大10回までのAPI呼び出し」など、明確な上限設定が必要です。
情報漏えいの防止策
APIキーをソースコードに直書きしてGitHubに公開してしまい、情報漏えいが発生。.envファイルなどを使って適切に管理しましょう。
ソフトウェア更新への対応方法
LangChainは進化が速く、更新によって動かなくなるコードも。例えば「chain.run()」が「chain.invoke()」に変わるなどの変更があります。バージョンを固定し、自動テストを導入することをお勧めします。
LangChain と他フレームワークの比較
LangChain vs LlamaIndex
LlamaIndex (旧 GPT-Index)は文書の取り込み・索引作成・検索に特化しており、"RAGシステム(検索拡張生成)を最も簡単に作れる"点が最大の強みです。
例えば、社内マニュアル1000ページをアップロードして「新入社員研修の流れは?」と質問できるシステムを数十行のコードで構築できます。
一方、 LangChain はプロンプト管理・処理の連鎖・AIエージェントなどAIアプリ開発の全体を管理できる総合フレームワークです。
例えば「天気を調べて、その結果に基づいて予定を提案して」といった複数ステップの処理が簡単に実装できます。
- 大量の文書を検索できるAIチャットを短時間で作りたい → LlamaIndex が便利です。
- 複数のAI処理を連携させたり、外部ツールと連携する複雑なアプリを作りたい → LangChainが適しています。
- 実際のプロジェクトでは、LlamaIndexで検索し、その結果をLangChainで処理するといった組み合わせも多く見られます。
LangChain vs Semantic Kernel
Semantic Kernel はMicrosoftが開発したAI連携フレームワークで、C#/.NET環境での開発に最適化されており、Azure OpenAIサービスとの連携がスムーズです。
例えば、既存の.NET業務システムにAI機能を追加する場合に適しています。
一方、 LangChain はPythonやJavaScriptでの開発が中心で、オープンソースコミュニティが大きく、利用できる拡張機能やサンプルコードが豊富です。
- C#で開発された業務システムにAI機能を追加したい → Semantic Kernel が適しています。
- PythonやJavaScriptで素早く開発したい、または豊富な事例を参考にしたい → LangChainが便利です。
LangChain vs 直接 API 呼び出し
単純に「ChatGPTに質問してみる」程度なら OpenAI APIを直接呼び出す方が簡単ですが、 プロンプトの管理・文書検索連携・外部ツール連携・実行ログの記録 などを自分で一から実装すると、とても大変です。
例えば、「プロンプトのバージョン管理」や「APIキーの安全な管理」だけでも相当な労力がかかります。
LangChainはこれらの機能を標準で提供するため、開発スピードが上がり、コードの再利用性も高まります。
選択基準の早見表
| フレームワーク | 得意分野 | 主な採用理由 |
|---|---|---|
| LangChain | AIエージェント / 複数処理の連携 | 複数のAI処理を連携・外部ツール連携・豊富な事例とコミュニティ |
| LlamaIndex | 文書検索AI(RAG)の構築 | 文書検索システムを短時間で構築・最適化された検索機能 |
| Semantic Kernel | .NET / Azure との連携 | 既存の業務システムとの統合・C#/Java/Pythonでの開発 |
組み合わせによる相乗効果
実際のプロジェクトでは、複数のフレームワークを組み合わせて それぞれの長所を活かすアプローチが増えています。
例えば、LlamaIndexで1000万件の文書から関連情報を検索し、 その結果をLangChainのエージェントに渡して 外部APIと連携しながら最終的な回答を生成する 「検索連携エージェント」などが人気です。
これは「社内文書を検索して、その情報をもとに会議の議事録を作成する」といった複合的なタスクに適しています。
LangChainの進化と将来性:最新情報と今後の展望
最近追加された便利な機能
LangChainは常に進化しています。
最新バージョンでは、より賢いエージェント機能や、状況に応じて異なるAIモデル(GPT-4、Claude、Llamaなど)を自動的に切り替える機能が追加されています。
また、ChatGPTのような会話形式のインターフェースにも対応し、より自然な対話システムが構築できるようになりました。
活発な利用者コミュニティと学習資料
LangChainのDiscordコミュニティとGitHub Discussionsは非常に活発です。
例えば、Discordでは毎日数十件の質問や事例共有があり、新しいツールやプラグインが次々と公開されています。
初心者の質問にも熱心に回答が寄せられるため、学習リソースとしても最適です。
今後の開発予定と将来性
公式ロードマップによると、今後はビジネス利用に欠かせない監査ログ機能やセキュリティ機能が強化される予定です。
例えば、「誰がいつどのようなプロンプトを使ったか」を記録する機能や、センシティブな情報を自動的に検出・マスキングする機能などが計画されています。
また、より大規模なAIモデルとの連携も進み、より高度な処理が可能になるでしょう。
企業での導入事例と活用状況
多くの企業がLangChainを活用し始めています。
例えば、ある金融機関では顧客サポート向けのAIアシスタントに、IT企業では社内ナレッジベース検索システムにLangChainを採用しています。
特に、セキュリティを重視する企業からは「社内サーバーでの運用(オンプレミス)」に対応してほしいという要望が増えています。
AIツール全体における役割と重要性
ChatGPTプラグインや Microsoft Copilotなどの登場により、LangChainの役割も変化しています。
LangChainは「裏方」として様々なAIサービスを連携させる重要な役割を担うようになりました。
例えるなら、LangChainは「AIオーケストラの指揮者」のような存在で、複数のAI機能やツールを調和させて、より複雑なタスクを実現する基盤技術として、その重要性は今後も高まるでしょう。
LangChainを始めるための段階的ガイド
初心者から上級者まで:ステップ別の学習プラン
第1段階:基本を理解する
まずはLLM、PromptTemplate、Chainの基本概念を理解しましょう。
例えば、「こんにちは」と入力すると「こんにちは、何かお手伝いできますか?」と返すシンプルなチャットボットを作ってみるのがおすすめです。
第2段階:簡単な質問応答システムを作る
小さなプロジェクトで実際に動かしてみましょう。
たとえば、特定のトピックについて質問に答えるボットを作成します。「太陽系について教えて」と聞くと惑星の情報を返すようなものです。
第3段階:外部情報と連携する
外部情報の検索機能やツール連携を追加します。
例えば、自社の製品マニュアルを読み込ませて「製品Aの使い方は?」という質問に答えられるようにします。
第4段階:複数のシステムと組み合わせる
天気APIや社内データベースなどの外部システムと連携させ、「明日の東京の天気に合わせた服装を提案して」といった複合的な質問に答えられるようにします。
第5段階:ビジネスでの本格活用
ビジネス利用に向けて、誰がどんな質問をしたかの記録や、個人情報の保護機能を追加します。
また、「このAIシステムで月にどれくらいの時間が節約できたか」などの効果測定も行います。
初めての方がよく抱く疑問と回答
「LangChainとLlamaIndex、どちらが自分の目的に合っていますか?」
社内文書の検索が主な目的なら LlamaIndex、様々な機能を組み合わせた開発をしたいなら LangChain がおすすめです。
例えるなら、LlamaIndexは図書館の検索システム、LangChainは総合的な開発キットのようなものです。
「導入にはどのくらいのコストがかかりますか?」
LangChain自体はオープンソースで無料です。ただし、GPT-4などのAIモデルを使う場合は、そのAPI利用料が別途かかります。
例えば、GPT-4は1000トークン(約750単語)あたり約10円程度です。
「日本語での利用は問題ありませんか?」
LangChainのライブラリ自体は日本語に対応しています。日本語の精度は、連携するAIモデル(GPT-4、Claude等)の性能に依存します。
最近のモデルは日本語も十分に理解できるので安心です。
導入前の確認事項
- APIキーをソースコードに直接書いていませんか?環境変数などで安全に管理しましょう
- LangChainの更新情報を定期的にチェックしていますか?月に1回は 公式サイトを確認しましょう
- 用途に合ったモデルを選んでいますか?簡単な質問ならGPT-3.5、複雑な処理ならGPT-4など、コストと性能のバランスを考えましょう
- エラー発生時の対応やユーザー情報の保護対策はできていますか?
これから始める方へのアドバイス
まずは簡単な質問応答ボットを作ってみましょう。
「こんにちは」「今日の天気は?」などの質問に答えるだけのシンプルなものでOKです。
これでLangChainの基本的な流れが理解できます。
慣れてきたら、検索機能とツール連携を組み合わせて、「先週の会議の内容を要約して、次回の議題を提案して」といったビジネス課題に対応できるシステムへと発展させていきましょう。